派遣ライフ☆企画課日誌

派遣ですが職場愛が深すぎる私の刺激的な日常を、独自の視点でつづっています!

初公判 コイケ社員は有罪か。

f:id:goominje:20200913020939p:plain

昨日は有給休暇をとって、仕事を休んだ。

この夏の猛暑で体は疲労が抜けなかったし、コロナ疲れもあったし、それに、一昨日、私は仕事中に転んで思い切りしりもちをついた関係で、体の節々が痛かったのだ。有給休暇も随分たまっていたし、思い立ったその足ですぐ休暇届けを出しに行った。

こういう時、承認をもらいに行くのは、まず派遣管理責任者の社員さんだが、その方は外出中で今日は戻らない。2番手の社員さんは?会議中。昼に戻ってまた別の会議。話しかける雰囲気ではなさそう。では、3番手の社員さんへ。それがコイケ社員。

顔が小池徹平さんに似ているので、心の中で”コイケ”といつも呼んでいる。ここでも便宜上”コイケ”と呼ぶことにする。

(お断り:小池徹平さん、ごめんなさい。かっこいい小池さんと、あの全然かっこよくない”コイケ”は全く似てないのだけれど、目元だけなぜか似ているので、ほんとに申し訳ないけれども、ご容赦ください。。。。。)

 

【休暇申請全然大丈夫事件】

コイケは同じ課の同じ班の男性社員。30歳。独身。色白小太り。

私が就業した時から同じポジションにいて、課内のこまごました事情に精通しており、私も日ごろ一番お世話になっているかもしれない社員さんだ。飲み会でいっしょになることも多いし、業務の連絡係なので、LINEもつながっている。

通常の業務上での確認事項など、よくコイケに聞いたりしているが、休暇の承認についてはコイケに権限はない。

しかし、とりあえずコイケに休みの希望だけ伝えておくことにした。何か私に依頼する予定の業務があったりすると迷惑をかけることになるので、確認しておこうと思ったのだ。

「急なんですけど、明日お休みしても大丈夫でしょうか?」

この聞き方が悪かったのかもしれないが、コイケは、

「あ、いいっすよ、全然大丈夫っすよー、まったく問題ないっすねー」

という返答だった。まあ、別にいいんですけど、「全然大丈夫」と言われるとちょっとカチンとくる。私が気にしないように優しさで言ってくれた?のかもしれないけど、優しさは別のところに使ってほしい。

この時期、急に休みたいと言ったらまず「体調でも悪いの?」、これはとにかく必ず聞かれるはずだ。体調不良であればさらに具体的な症状を聞かれる。熱は?咳は?など。

見た目が元気そうに見えたのかな?

ならしようがないけど、でも、あれは?前日私が転んだの見てたでしょう。

ちょっとよっかかった段ボール箱の山が、実はすべて空き箱で私を支える力などなく、バランスを崩した私はそのまま段ボール箱といっしょにわーっと倒れてしまった。すぐに2~3人の男性社員さんがかけつけてくれた。宿敵A男でさえ走ってきた。私は恥ずかしくてすぐに立ち上がってどこかに隠れたかったが、思い切り腰と膝をぶつけ、痛くてしばらく動けないほどだった。

幸い大したケガなどはなく、痛みもひいてきたところで立ち上がり、私がつぶしてしまった段ボール箱が気になって片づけようとしたが、まわりの方々が代わりにささっと片づけてくれ、それよりしばらく休んだ方がいい、と言ってくれて、私はとりあえず席に戻った。その時、誰が駆けつけてくれたか、ちゃんと覚えている。コイケが遠巻きに見ていたのもちゃんと見えていた。

だから、「あ、もしかして昨日転んだ時、どこかケガでもしました?」とかあってもよさそうなものだ。ところが、そのことには一切触れず。

 

そのへんまったく気がまわらなかったとしても、もうちょっとなにか言い方あるんじゃないか。「大丈夫だとは思いますけど、他の人にもきいてみましょうか。」とか、「えー?困るなあ。仕事は大丈夫だけど、さみしいなあ~」とか、「たまにはゆっくりお休みするのもいいですよね。」とか、とにかく、お前なんかいてもいなくても全然仕事に影響ないわ、という感じにならないような言い方できないかね~?

私の方がめんどくさい人間なのかもしれない、そのへん。だけど、他の派遣の人に確認してみたら、やっぱりコイケの言い方は「失礼!」とか「無神経!」とか、あまり評判がよろしくなかった。

 

そうだ。コイケは悪い人間ではないが、絶妙に無神経なのだ。デリカシーがない。

 

段ボール箱くずし拡散事件】

段ボール箱をなぎ倒して転んだあと、ほんとはまだ体が痛かったけれど、ずっと休んでもいられないし、私は仕事に戻った。ただ、転んだこと自体のショックや、恥ずかしさ、そして体に残るじーんとくる痛みなどで、まだダメージを引きづっている状態である。

コイケは、何かの書類を倉庫にしまうため、空の段ボール箱を用意しておいたようだ。(そもそもコイケがそんなとこに空箱積んどくから私が転んだんじゃないか、と後でわかった)

私が箱のいくつかをつぶしてしまったので、コイケはまた新しく段ボール箱を組み立て始めた。事情を知らない人が通りかかって、コイケに話しかける。するとコイケは正直にありのままを答える。派遣の〇〇さんが転んでつぶれてしまったので~、と。何人かの人に言ってたよね?私すぐそばにいたんで丸聞こえなんですけど。もちろんコイケも私に聞こえてることはわかっている。だから、嫌みとかいやがらせとか、そんな気持ちは全然なく、ほんとに聞かれたからありのままに答えているだけなんだろう。

そういうとこなんだよ。ちょっとは気をつかってくれてもいいと思う。

恥ずかしさが目の前で拡散されている。もう、ほんとにすぐ帰りたかったわ。

まあ、箱つぶしたのは悪かったけど。

そう思って、私はコイケのところに行った。

「すみません。私が箱をだめにしてしまったので、ご迷惑おかけしました。」

そう言うと、

「そんなことないですよ、こんなとこに置いといた自分が悪いんです。すみませんでした。」これが模範回答だろうと思うが、コイケは、

「へへーっ(笑)、ほんとそうですよー(笑)」

とこんな感じで、おなかをかかえて爆笑した。なんと無神経な男か。

 

【おばさん発言容疑】

コイケは独身なので彼女募集中を公言していた。そんなある日、抽選に当たった人しか行けない高額会費の婚活パーティーに行けることになり、コイケは数日前から浮かれまくっていた。社内の上司、同僚、後輩、顧客に至るまで、彼を知る人はこぞって応援の意思を表明した。私だって普段お世話になっている彼のことを少なからず応援する気持ちはあった。

そして、婚活パーティー当日、コイケは気合の入った勝負服で出社してきており、意気込みのほどがうかがわれ、応援隊も朝からエールを送っていた。コイケが残業にならないよう、仕事を手分けして済ませたり、ランチのメニューには、ニンニクのないものがいいよとか、ソースが飛び散らないものがいいよとか、いろいろアドバイスをしたり、みんなで協力した。普段は厳しい上司も、今日のコイケにはちょっと甘く、報告書のやり直しの期限を今週いっぱいでいいよと延期してくれた。部下の人生がかかっている大事な日となればしようがないな、と笑っていた。

夕方になり、コイケの仕事も順調に進行しており、定時あがりが確定になったころ、今夜の必勝作戦を指南する彼の先輩たちにかこまれ、コイケはニヤニヤしながら、手元のコーヒーをぐいっと飲んだ。その時、今夜出会うであろう未来の花嫁候補の顔を思い浮かべでもしていたのか、コイケの注意がマグカップからそれ、彼の白いワイシャツにコーヒーがこぼれた!

あぁっ!

そこにいた全員が叫んだ。

コイケはあわててウエットティッシュでふいたのだが、時すでに遅し、コイケの胸にはたこ焼き大の茶色いしみがくっきりできてしまった。

トイレに駆け込み、ぬれタオルでたたいたりしたらしいが、しみは完全にはとれなかった。こんな時、女性なら、しみの取り方とか知ってるんじゃないか的な目でちらっと見られたが、そんなの私は知らない、あしからず。

「今からデパート行って、新しいシャツ買ってこい!」

コイケの先輩社員が言った。しかし、コイケは、

「いや、いいっすよ、これで行きます。」

と言って、胸ポケットにタオルハンカチを折ってつめこんだ。

「汗かき男の設定でいきますわ。」

そう言って頭をかきながら笑顔をつくってみせた。

 

シャツはおろしたてに違いない。しかも高級そうな生地、コイケにとって完璧なコーデで決めてきたのだろう。なんとかコーヒーのしみをごまかしてやり過ごそうと考えたようだった。とはいえ、万全で臨むはずの大舞台にケチがついたようで、がっかりしているに違いない。気落ちした様子の彼を見て、少し気の毒になり、私は声をかけた。

「まあまあ、着てるものより、人間は中身ですよ、中身で勝負!ね?」

「しかし、第一印象は大事じゃないですかね…」

そりゃそうだよねー。ならば、

「あえて、それを売りにするっていうのは?」

「どういうことですか?」

「だから、『大事な日に、こんなしみ作っちゃいました~』的な。印象に残るんじゃないですか?その方が。そしたら、案外、『かっこつけずにありのままの自分を出している、かっこいい』とか『私がしみをとってあげたい』とか、そんな女子がきっと中にはいるんじゃないでしょうか?私だったらそう思う気がします!」

そう言った。もちろん彼を元気づけたい気持ちから出た言葉だが、言いながら、あながち間違っていないんじゃないか、ほんとに私だったらそう思うな、などと考えていた。するとコイケは、

「あー、ダメンズ好き的な?でも、それって、年上女性が年下男を見る時ですよね。自分が知りたいのは、若い女性が年上の男性を見る時に、こんなうっかりをどう思うかってことなんですよ。」

と言い放った。私は頭をすこーん!と何かで打たれたような気がするほどショックを受けた。

「なるほど、それはそうですね。失礼しました。」

それだけ言って、引き下がった。

要するに、おばさんの意見はいらん、と。そんなん聞いてないわ、と。

そういうことをコイケは言ったのだ。

確かに私は彼より年上である。セクハラとか敏感な世の中なので、さすがに「おばさん」とは一言も言わないが、明らかにおばさん扱いではないか。

そう思うのはしかたないが、それならただ受け流せばいいだけのことじゃないか。「あー、そうっすねー」といつものように。コイケもコイケで必死だったのかもしれないが、そういうとこなんだよ!ほんとに!

 

翌日の話では、会場の照明が暗めで、あまりしみは目立たず助かったと言っていた。そりゃよかったね。で、何人かの女性と連絡先を交換できたが、実はその後数か月間、みんな誘うとOKはしてくれるけど、必ず前日にキャンセルされることになる。高級レストランやお芝居のチケットの予約、キャンセルできなくて、男友達を何度もつき合わせるはめに。今時の女性はみなさんお忙しいようで、なかなかデートもままならず、と苦笑いしていたが、コイケ、それはきっとあなたが本命ではなく、キープされてるだけだからなんじゃ?とはいえ、まだ完全に切れてはいないとのことで、それはそれで頑張ってほしい。しかし、おばさん扱いの一件は忘れないからね。

 

【関係者の証言】

その他にも、コイケの無神経な行動は多々あり、眉をひそめている人は多い。

清掃中のお掃除の業者さんの持っているごみ袋に、ひょいっとごみを投げ入れる。本人はいいことをしたような顔をしているが、私は無神経で乱暴な行動に思える。紳士的ではない。

 

それから、隣の課からのタレコミ。

隣の課には大きな冷蔵庫があって、課長さん自らがジャスミン茶、アイスコーヒー、アイスティーなど、様々なドリンクを作り置きしている。もちろん自分の課内の皆さんのためだ。会社の経費ではなくポケットマネーで、皆さんでお金を出し合ったりもしている。課長さんが自分も飲みたいからいいよと、まとめて作ってくれるのだそうだ。氷もわざわざ製氷皿を買ってきて、せっせとつくっている。

そこにコイケはマイボトルを持って堂々とおもむき、勝手に冷凍庫を開けて貴重な氷をガラガラっとボトルに入れ、冷蔵庫を開けて好きなドリンクをジャーっとそそぎ、満足気に戻っていく。

最初その光景を見た派遣のT子は驚愕したそうだ。え?他の課の人がなぜ勝手に飲んでるの?わかっててやってるの?知らないでやってるの?誰かに言ったほうがいいの?どうしよう?どうしよう?

とりあえず親しい社員さんに言ったら、気が付いているけど言えずにいるそうだ。なんとなくほのめかした事はあるけど、全然察してくれないので仕方なく黙認しているとか。なんと恥ずかしい男か。

 

わが企画課でも、彼は同じような振る舞いをしていることがある。うちの課では隣の課のようにドリンクは作ってはいないが、おやつのお菓子類はつねに用意されている。これは会費制になっていて、毎月定額を集め、若手社員さんが買いに行き補充している。ただし、健康上の理由などでお菓子を食べない人もいるので会費は強制ではない。だから、課内には会費を払ってお菓子を食べている人、会費を払わずお菓子も食べない人、の2通りが存在している。みんなルールを守っている。ただ一人を除いては。コイケだ。

彼は会費を払っていないが、お菓子を食べている。

集金担当の若手社員さんに聞いたのだから間違いない。しかもお菓子の種類のリクエストまでしてくるというのだ。なんということか。なぜこれが許されているのか。

会費は毎月定額が決まっているけれど、管理職の方々などはほとんどの方が少し多めに払っている。誰に言われたわけでもないけど。なかには、会費はいつも多めに払いながら、ほとんど食べない方も。そんな中、コイケだけはいつもただで好きなだけお菓子をつまんでいるのだ。

なぜか?

若手社員さんに聞くと、最初の一回だけは払ったらしい。しかし、他の方は自分から会費を持ってきてくれるのに彼だけはそれ以来払おうとせず、若手の社員さんからしたら先輩にあたるコイケに催促もしづらく困っているそうだ。

もしかして、会費は「年会費」だと思っている?

そんなわけないだろ。

あれだけ毎日お菓子食べて、数百円で足りるわけないだろ。

コイケにしたら、上司が多めに会費を払っているのを知っているので、それでなんとか賄っているのだろうと思っているのか、会費払えと言われるまで払わないでいいか、とか、たぶんそんなに深く考えていないのだろうと思う。そこにお菓子があるから食う。たぶんそんな感じ。ああ、コイケにもうちょっと他人の目を気にする神経があったなら。後輩を慮る神経があったなら。

 

そんなコイケの無神経さは、飲み会の時に絶好調になる。

焼肉が焼けたら真っ先に箸をだす。高い肉から取る。

お刺身好きの部長に配慮して誰も手を出さないマグロの大トロも遠慮なく取る。

大皿の最後の一個は必ず彼が取る(私もよく見てるな)。

お酒が入るとさらに調子にのり、部長への忠誠心を示すためなのか、他の部の部長の悪口を言ったりする。課長があわててコイケの口をおさえる始末だ。

 

【個人情報漏洩事件】

お酒の席とはいえ、これはほんとに許せない、という事があった。

Nちゃんという新人の社員さんがいる。コイケの下について毎日頑張っている。Nちゃんから先輩としていろいろ相談も受けているようだった。Nちゃんが元気がない時期があったので仕事で何かあったのかと心配になり、コイケに聞いてみたことがあった。

するとNちゃんは今、別のグループの先輩で好きな人がいるらしく、いわゆる恋煩いらしいというのだ。立ち入ったことを聞いてしまったと思い、話を切り上げようとするとコイケは話を続けた。

Nちゃんの好きな人というのは、彼女持ちの人である。それはNちゃんもわかっているので、それ以上どうこうするつもりはない。なぜその人が気になるのかというと、昔ふられた相手に似ているから、ということらしい。その先輩はやさしいので、話をしているとその昔ふられた相手にやさしくされている気がして、心が癒される、そんな思いで毎日接しているというのである。

なんともせつない話だなあと思いつつ聞いていると、コイケは最後に、

「自分がフリーなら彼氏になってあげてもよかったんですけど、今、いますからね、そうもいかないんで。へへっ(笑)」

と言った。どういう立場で言ってるのか、Nちゃんの憧れる先輩とはヴィジュアルが全然違うだろうが!しかも、まるで彼女がいるような言い方だけど、ドタキャンしてくる婚活パーティーの人のことだろう。彼女じゃないし。

ここまでがNちゃんに関する内緒の話。私はそう思っていた。

ところがコイケは、飲み会の席でこの話をみんなの前でしたのである。しかもその席にはNちゃんの好きな先輩社員も同席していたのだ。みんなに冷やかされながらも彼はまんざらでもない顔をしていたが。そしてその日以後も、その先輩社員はNちゃんの気持ちを知りながら今まで通り優しい態度で接するのだ。そしてそれを見ている周りのほぼ全員がNちゃんの気持ちを知っているのだ。Nちゃんはコイケを信用して打ち明けたのだろうに。彼女の秘密は、飲み会で酒の肴になってしまった。

コイケの罪は重い。

 

かくいう私も被害にあっている。

ある飲み会のあと、コースの宴会料理があまりに上品すぎて量が少なく、お腹がすいた私は駅までの帰り道でつい「ラーメンでも食べて帰ろうかな」と、つぶやいてしまった。それを聞きつけ、のってきたのがコイケ。行こう行こうとノリノリで、行きつけのラーメン屋に連れていくというので、ついていき、コイケおすすめのラーメン屋さんに二人で入った。各自食券を買い、席でラーメンを待ち、出てきたラーメンをたいらげると、お店を出て別れた。大した会話もしてなかったと思う。

ラーメンは美味しかったが、コイケと二人でラーメン屋に行ったことなど、私は誰にも言わなかった。ところが数日後には課内の全員がその事実を知っていた。

「コイケとシメのラーメン、行ったんだって?」

いろんな人に言われた。

事実ではあるが、コイケがどんな言い方をしたのか、みんなおもしろおかしそうな顔で言ってくる。食いしん坊と思われたのか、ラーメン大盛にビール頼んでましたよ~、なんてコイケが盛った話をしたのか、とにかく私のイメージが「シメのラーメン行くやつ」になってしまったではないか。健康ブームの昨今、男同士でもご法度と言われているのに。コイケは女心をまったくわかっていない。こういう個人情報を躊躇せずに漏らしてしまうのだ。

 

無神経でデリカシーのない男。

彼は心臓に毛が生えているのか。どうしたらそこまで強靭な神経を保てるのか。

被害者の一人として、私に権限があるなら懲役刑に課して、心底反省してもらいたいものだ。

 

彼の神経の太さは筋金入りと思われる。見てみたいくらいだ。

しかし、少々のことでは折れないそのハートは、見習いたいと感じることも、悔しいけれど否定できない。

 

コイケと組んで準備してきた仕事があった。別の部署からの発注で、採用されれば大きな成果になるはずだった。完成間近になり、担当責任者に説明することになった。しかし、途中でプランの方向性が変更になっていたのにその連絡がうまく伝わっていなかったらしく、結局相手の担当責任者を怒らせてしまった。

「ふざけんな!こんなの使えるか!こっちも暇じゃないんだ、ばかやろう!」

こんな罵倒が聞こえてきて、心底肝が冷えた。連絡ミスはこちらに落ち度はなかったのだが、怒り心頭の担当者はそこには気づいておらず、コイケも何も弁解しなかった。仕事の苦労が報われないこと、期待に沿えなかったこと、みんなの前で怒鳴られたこと、どれをとっても、直接応対していなかった私でさえショックで震え、うちひしがれていた。お手伝いの私と違って、こっち側の担当者として頑張っていたコイケの立場ならなおさらダメージは大きいだろうと思い、その瞬間は彼を見ることもできなかったが、すっかり機嫌を損ねた大男の担当責任者が立ち上がって行こうとした時、コイケは相手に負けないほどの大きな声でこう返したのだ。

「そうですか!残念です!いい案だと思ったんですけどねえ。精一杯やりましたが。では、お疲れさまでした!」

そして大男がポカンとしてる間にすたすたと歩いて自席に戻り、私を呼んで、関連資料をシュレッダーにかけて処分するよう指示した。あてつけな態度ではなく、極めて自然な感じだったと思う。

大男が去ってから、私はコイケに、大丈夫ですか、と小声で聞いた。彼は、

「ええ、大丈夫ですよ。しかたないです、こういうのは。」

そう言って、もう次の仕事にとりかかっていた。

心折れた人が無理して頑張ってる感じではなかった。

彼は本当に大丈夫だったのだ。なぜなら、「あ、だめだ」と思った瞬間に彼はバッサリと断ち切れる。そして振り返らずに先に進む。悪あがきしたり、引きずったり、くよくよ、うじうじすることなく、気持ちいいほど、バッサリだ。

 

常にくよくよ、うじうじ、過去にひきづられがちな私には、そういう神経がない。それゆえ、生きにくいと感じることも多く、ストレスで毛も抜ける。ああいう時はほんとにコイケをうらやましく思う。私もああいう風にバッサリといってみたい。「コイケカッター」とでも名付けようか。

 

とはいえ、これでその他の罪が消えるわけでは断じてない。

しかし、彼の所業は許しがたいものがあるが、それを黙認しているまわりもまわりなのだ。なぜ彼をそのままにさせておくのだろう。いつかミーティングの議題にあげてくれないだろうか。

 

とりあえずは、彼がいなくなると、一番困るのは私なわけで、いろいろ教えてもらっていることもあるわけだし、昨日の有給休暇取得のための承認について、不在がちの上司につないでくれるなど尽力してくれたことも踏まえ、不本意ではあるが、今回は処分保留とし、今後の経過観察措置でとりあえずは手を打とうか、と思う。

 

 

【契約満了まであと 383日】