派遣ライフ☆企画課日誌

派遣ですが職場愛が深すぎる私の刺激的な日常を、独自の視点でつづっています!

職場の愛すべきモンスター

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私がなぜこの職場を愛するのか。

 

…なんて、正直自分でも不思議に思う。

 

オフィスがおしゃれ?

→とんでもない!若干古めかしい、生活感あふれる平凡オフィス。

 

仕事にやりがいが?

→仕事自体にやりがいは、ないなぁ。スキルもそんなにいらないしね。

 

お時給がいい?

→まさかまさか。時給は、中の中。もうちょっと上がればなあ。

 

逆にいやなとこある?

→ある。フロアの床清掃、今年から入らないらしい。掃除してほしい。

 あと、トイレの流すボタンが壁についているやつで、超かたい。

 それから、半休認められないの、どうして?

 IDカードの氏名がテプラなのよね、派遣だけ。はがれてきちゃったし。

 ある女性社員さんの香水がキツイ。マジで。

 

ははっ、なんかたくさん浮かんでくる。確かに、確かにね。不満はあります。

でも、それでもこの現場、まだ続けたいんだ。

この現場にかかわっていられることが、喜びであり誇りになる。そう思える職場だから。

 

企画課…名前の通り、ここではいろんなプランが生まれ、大きなものに創り上げられていく。ここに在籍する社員さんは全員、プロの技術者。どんな難題もチームが一丸となってクリアしていく。

一人ひとり専門の担当分野があって、企画案件によりチームが編成される。

いったんチームの仕事がはじまったら、普段仲の悪い同期の二人も、眠そうなあの人も、いがみあってる人も、ライバル同士も、ベテランも若手も、ほんとにOneTeamになって、最高のパフォーマンスをみせてくれる。

その過程をそばで見ていられるのはなんと素敵なことだろう。ほんとに心から思う。

働いている時の皆さん、とてもかっこいいと思う。

例えば、なにかトラブルが起こった連絡があった時なんて、それまで雑談してたメンバーがパッと立ち上がって、チームリーダーのもとに集結。若手が状況報告、ベテランが補足説明、情報共有、チームリーダーの指示で方向性決定、それぞれの持ち場に戻り、スピーディに対処、対処、対処、そして完了報告。終了。チームリーダーは上着を脱いでいすにかけ、喫煙所へ一服しに向かう。

はぁ~、かっこいい~、と密かにおもいながら、私は私がせめてできるコピー取りやら電話応対などをせっせとこなすのである。

 

そう、私はここの人たちの才能とパワーに惹かれているのだと思う。

金太郎飴のひとかけらのような、世間並みの平凡な自分、歩いてきた道も無難で平凡。

そんな自分がはじめて目の当たりにした本当のプロの人たちの仕事現場。

 

その人たちと自分との間には、目には見えないけど高い一線がある。

同じ職場にいるけど、まったく違う次元にいるようだ。隣で同じ社内誌を読んで笑っていても、私とその人たちの行く先はまったく違っている。

だからこそ、たまたま出会えた期間限定のこの現場が私は愛おしくてたまらない。

 

この現場のために、私はできる限りのことをしよう。

部内で、いや社内で一番快適な居心地のいい職場にしたい。

この素敵な職場のまま、守っていきたい。

 

などと、少々おおげさな言い回しだが、わりとまじめに、そして勝手に思っている。

 

だからこそ、この現場を乱す輩は許せないのである。

H主任。この人は階級は平社員らしいが、かなりのベテランさんである。

地方の営業所時代はそれなりの役職だったのに、何か理由があり、今は上級平社員。

その理由はわからないけど、顔も広いし、普段のふるまいから、課長レベルの役職経験者かな、という気はする。

このH主任がかなりの曲者で、ルーティンワークで安定走行している私の時間を、いつも突然叩き壊すように割り込んで入ってくるのがこの人なのである。

 

まず声がでかい。体もでかいし、態度もでかい。

自分の希望が最優先で、なにか思いついたら、会議中でも休憩中でもかまわず後輩社員を呼びつける。

脇に立たせて、長いお説教からの過去の武勇伝を話す。

定時退社の若手をエレベーターホールで待ち伏せ、「飲みに行くぞ!」と無理やり連れ出す。

口癖は、「なにぃ~っ?」「だろ?だろ?だから言っただろ?」「だめだめ!」「オレ、知らねえからなっ」…などなど。これをフロア中に聞こえるような大声で叫ぶ。

後輩社員からは、”今時貴重な昭和パワハラおやじ”、と呼ばれている。

ご本人は課の中の、ハラスメント相談窓口担当なので笑える。

 

派遣社員の私とて、例外なく被害にあっている。

とにかく細かいことやめんどくさいことが出来ない方で、その都度私を呼びつける。

シャーペンの芯が入れられない、テプラのカートリッジが変えられない、コピー機のトナーがきれた、プリントした書類が見つからない…のような時はパニックになって大騒ぎする。そんな時、代わりにやってさしあげることは何でもない、そのくらいは。ただ、いちいち大声で呼ばないでほしい。奥さんでもお母さんでもないんだから。

仕事の指示も中途半端であいまいでほんとわかりにくい。言ってない事を言ったつもりで、忘れてるよ!と怒鳴られたことが何度あることか。冤罪だ。

別にいそぎでもないのに、何か頼むときは必ず「大至急」と言う。”大至急”仕上げて持っていくと、机の上に半日放置してからやっと手に取る。

 

そんな昭和を絵に描いたようなおじさんことH主任は、意外にかわいいもの好きだ。

私物のカップスマホケース、椅子に敷く座布団などキャラクターものが多い。でも、それらを「かわいいですね」と言わないと機嫌が悪くなるのでいちいちめんどくさい。

こないだなんか、女性用のようなマスクをずっとつけていて、そのくせ「耳が痛い」、と言われるので、「ゴムをのばしてゆるめるか、大きめマスクにしたらいかがですか?」と答えたら、

「なにー?誰の顔が大きいって?おい、みんな、おれの顔が大きいって言われた!」

と、大騒ぎ。わざとふざけてるだけなのはわかるけど、なんかめんどくさい人だな、とうんざり。そしてH主任はさらに私に対して「今の発言はパワハラじゃね?」と言ってきた。もう意味がわからない。立場が違うでしょ?ありえないよ。

H主任いわく、私がH主任とのやりとりで、パワハラを受けたような態度をとっていることが逆パワハラだというのだ。今のやりとりでどこをどうしたらそうなるのかまったくわからなかったが、たぶんこれはH主任がただ「逆パワハラ」という言葉を言いたかっただけだな、と理解した。

あぜんとしている私を見てなぜかH主任は、うれしそうにきゃっきゃっ笑っていた。

もう、ほんと、なんなの、この人。

 

なんでこんな人が企画課に?と思った。

自分は中心人物のようにふるまっているけど、まわりからはそう思われていないんじゃ?

もちろん仕事の能力はある人なんだろう。課長からも一目おかれてはいる。

だけど、この人がいるだけで、職場の雰囲気がちょっと違うんだ。ちょっとリラックスできないような。急に何いわれるかわからないから、なんとなくみんな戦闘態勢一歩手前の雰囲気。この人が大騒ぎしだすと、やれやれと動き出す役の人と、名前呼ばれるまでは気づかないふりをする人にわかれる。みんなちょっと苦手なんだ、やっぱり。その証拠に、この人が席をはずすと、とたんに和やかムードになる。

 

まさにモンスター級の”昭和パワハラおやじ”じゃないか!

そして無類のスイーツ好き。…なんだそれ。

 

でもこれはほんとの話で、出社してから帰るまで、常に自席にお菓子を置いている。どうも机の引き出しの中にお菓子大袋本体があるらしい。ちょこちょこ引き出し開けてはお菓子を口に放り込んでいる。

いただきもののお菓子がある時にも、私が配ってまわるのを待てないようで、いつもフライングでお菓子を物色にくる。

たまたまH主任が外出している時に来客があって、その場にいる人だけでお土産のお菓子をわけてしまったことがあったが、彼が帰ってきてそれがばれてしまった後、その日はもう大変だった。おれの分がない!と言ってすねてしまって、また大騒ぎ。まだ食べていなかった人が「よかったらどうぞ」と気を使ってお菓子を渡したが、「もういい!」と言ってどこかに行ってしまい、しばらく席をはずしたままだった。その後ころっと機嫌よくなって戻ってきたが、別の部署の同僚のところに行ったら同じお菓子があって、2~3個残っていたらしい。その場でひとつ食べ、2つはもらってポケットに入れてきた、そう言って大笑い!

ああ…、もしかしてこの人、ただの子供?

 

そんなH主任が特に目をかけている若手男性社員がいる。若手といっても入社10年目なのだが、愛想だけはいいけど、どこかまだ学生気分が抜けないようなDさん。

担当は違うのだが、暇があるとH主任はDさんのところに行き、雑談したり、たまに仕事の出来を見てあげたり、なにかと面倒をみている。

つい先日のことだが、H主任が外回りからもどって自席につくと、H主任の隣のKさんの机の上に書類封筒が置いてあるのを見つけた。H主任はだまってその書類封筒を凝視していた。そのうちKさんが戻ってきて書類封筒に気づき、手に取って開けようとした。

私はたまたまH主任の席の近くにいたのだが、H主任はKさんに「ちょっと待って」と言うと、急に私の方を向いて「これ書いたの誰?」と言い、書類封筒を指さした。

H主任の言いたいことはすぐにわかった。その書類封筒の表面にボールペンでなにか書き込みがあった。それはKさんにあてた連絡メモのようなものだった。

「14:30にE社のS様よりTELありました。折り返し連絡ほしいそうです。」

 

私は、その書類封筒が宅配便で送られてきたもので、それを受け取ったのがDさんであることを知っていたし、そこに書いてあるメモの文字がDさんのものであることもわかっていたので、その旨H主任に伝えた。おそらく言うまでもなくH主任もわかっていたようだ。

H主任は例によって大声でDさんの名前を呼んだ。ペットボトルのお茶をごくごく飲んでいたDさんは、あわてて立ち上がり、H主任のもとへ駆けつけた。

 

「はい!なんでしょうか?」

 

「なんでしょうか、じゃないよ、おまえ!なんだこれは?」

H主任は、書類封筒の上に直接書かれたメモを指さしDさんに怒鳴った。いつもに比べたらそんなに大きい声ではない。でも、真剣に言っていることは伝わってきた。

 

「おれの言っている意味、わからねえのか?おまえ、なんでこういうものに直接書くんだよ?」

 

Dさんは額から大粒の汗を流しながら必死に考えている様子だったが、なぜH主任がこんなに怒っているのか、残念ながら本当にわからないらしい。

 

「なんでって、え、と。まずかったですかね?どうせ書類封筒あけたら捨てるものだから、書いてもいいと思ったんですけど。」

 

H主任とDさんの間でKさんが気まずそうにしながら、

「H主任、いいですよ、別に…。」

と言った。H主任は、

「よくねえよ。ごめんな、悪いけど、こいつ何もわかってないから。」

そう言うと、Dさんにゆっくりと説明しだした。

 

「いいか、これはお客様からKさんに届いた大事な書類が入っているんだ。そのうえにおまえが何か直接書き込むなんて、誰にとっても失礼な話なんだよ。

封筒あけたら捨てるって誰が決めた?おまえが勝手に思っただけだろ。

これはお客様とKさんのものだろ?

あるいは、もしこれが受け取れない書類なら?このままKさんが返送するかもしれないだろ。その時こんな封筒で送れるか?」

 

Dさんはようやく理解したようで、申し訳ありませんでした、と頭を下げた。

最後にH主任が、「書類は書類、メモはメモ、別々に渡せ。わかったな!」といつもの調子で言い、Dさんの肩をバンっとたたいた。お説教終わりの合図だ。

 

私はそっと自席に戻っていたが、会話はずっと聞こえていた。

まわりの社員さんたちも気にしていたようだったが、誰も何も言わなかった。

Dさんが席に戻り、KさんはE社に電話をかけた。

 

その後給湯室で洗い物をしていると、H主任が前を通りかかった。

私に気づくと、立ち止まり、独り言のようにつぶやきだした。

「今の若い人らは、わからないのかねえ、おれらのころはあんなこと常識だったんだけどね。誰も言ってやる人がいないから、わからないのかね…。」

 

そうですね…と小さくうなづきながら続けていると、H主任はへへっと笑い、

「こまかいこと言うおやじだと思うでしょ?実際大したことじゃないんだけどね。でも、おれが言わないとさあ、誰も言わないしさ、あいつらもわからないでしょ。」

 

ん? あいつら?

「Dも、Kもね。」

そうか。Dさんにだけじゃなくて、Kさんにあてたメッセージでもあったんだ。

非常識なことをする若手と、それを注意しない先輩。

それをH主任は見過ごせなかった。こうやってちゃんと教えてやるんだよ、ばかみたいなことでもさ、と。

 

「がはははっ!」

H主任は急に大声で笑うと、さあ、今日は誰を連れて飲みに行くかな~、と言いながら大股で歩いて行ってしまった。

 

なるほどねー。うん。なるほど、ね。この人ほんとモンスターだわ。

そう思った。

おそらく、このような方が必要なんでしょう。受け入れることにします、私も。

でも、モンスター枠は、ひとつで十分ですので。

 

その日、誰がモンスターの餌食になったのかはわからないけど、翌朝も彼は上機嫌で出社し、全員が挨拶を返すまで事務所内を歩き回るという彼のルーティンワークを、いつものようにたっぷりと時間をかけて行っていた。

 

やっぱりこの職場おもしろい。

 

 

【契約満了まであと 484日】